こんな方におすすめ
- 何かしらで輸入に関わりのある事業者
- 100円ショップをよく利用する消費者
- 小売業界や製造業に興味のある人
100円ショップは、消費者にとって手軽で便利な存在として広く親しまれています。しかし、その成功の裏には、業界構造の問題や下請け業者への過度な負担が隠されています。本記事では、こうした影響について消費者に理解を深めてもらうことを目指します。具体的には、100円ショップの価格戦略や頻繁な仕様変更が下請け業者に与える影響を明らかにし、さらに売れ筋商品の独占や売れない商品の廃棄が生み出す問題に関して等です。
安価な商品の裏にある業界の実情を知ることで、より倫理的な選択ができるようになることを願っています。また、製造業や卸売業の視点からもこれらの問題を掘り下げ、業界の持続可能性や取引の透明性について考えるきっかけを提供します。本記事が、読者にとって単なる批判ではなく、より良い未来に向けた提案を含む建設的な内容となるよう努めます。
今回は、執筆者自身が100円ショップの卸売業者の一員として約5年弱、日本国内外を含めて売り込みをする中で感じた経験談を語ってみたいと思います。あまり具体的に書くのは憚られるので端折るところはありますが、シビアに感じる事ばかりでした。が、普通の生活をしていたら間違いなく経験することができない事だと思いますので今回はそんな内容を少しシェアしたいと思います。
コロコロ変わる指示
100円ショップでは、商品のデザインやパッケージ表示などの仕様が頻繁に変更されます。この変更は消費者に新鮮さを提供するための工夫ですが、実際には下請け業者に多大な負担を強いています。例えば、急な変更により既存の在庫が無駄になったり、新たなデザインの対応で生産スケジュールが混乱することがあります。また、これらの変更指示が具体性に欠けたり、短期間で複数回に及ぶケースも少なくありません。このような状況では、業者側は柔軟性を求められるだけでなく、追加コストを負担せざるを得ません。
度々発生したのが、例えばAという部門からパッケージ変更のメールが流れたと思ったら、今度はBからまた内容が異なる変更指示が来たりして混乱する、等でした。結局修正メールが届くのですが、余計な時間をそれに費やすことになることがまぁまぁあったのを思い出します。無論、パッケージ変更も「はい、分かりました。」と安請け合いはできません。何故なら、現地側が次回以降のコンテナ分のパッケージを印刷済であることが多々あるからです。なので、そのようなメールが届いたら速やかに現地担当者へ連絡して状況を確認の上、2ヶ月後まではこのパッケージのままで進めさせて欲しいというお伺いを立てることになります。拒否られたこともあった気がします。そうなると、また揉める・・・。
消費者の立場からすると気にも留めないことでしょうが、100円ショップの商品のパッケージには統一感が無い事がしばしばあるのはそういう理由なわけです。(○印さんとかと比較すると分かりやすいですね。)
バイヤーの多さ
100円ショップでは、商品ごとに異なるバイヤーが担当する仕組みが一般的です。一見すると専門性を活かした効率的な運営のように思えますが、下請け業者にとっては対応が煩雑化する原因となっています。例えば、同じ取引先であっても異なるバイヤーごとに求められる要件や優先事項が異なるため、業者は個別の対応を余儀なくされます。この状況は、業務の効率性を低下させるだけでなく、誤解や行き違いを招きやすい環境を生み出します。また、バイヤーの要求が必ずしも現場の実情を反映していない場合、無理な納期やコスト削減を求められることもあります。
商品数が多ければバイヤーが増えるのは当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんが、それにしても複雑怪奇です。私自身、何度も商品提案等の理由で訪問した事がありますが、最初にそのフロアを見た時は圧倒されました。200人はくだらない人数の各担当者がうごめいていたからです。日用品関連の卸売業者は最初はニッチに攻めていたとしてもやはり拡大していくとなると横展開することになるわけで、そうなると商品ライナップも増えていき、行き着く先は上記の展開になるわけです。1日メール何通来るんだよ、って言う事が常でした。
100円ショップの商品の中にはそれ自体は似ているけどジャンルが違うってことがあります。バスマットなのか玄関マットなのか、コルク製品(クラフト)なのか、キッチン用品なのか。それによってバイヤーも別になるので、正直混乱することもありました。あまりにも商品ラインナップが増え過ぎてしまっているのでバイヤー自身もなんだか良く解らなくなっているような感じを受けたこともあります笑
卸値の圧縮
価格競争が激化する中で、100円ショップは下請け業者に対して徹底したコスト削減を要求しています。卸値の圧縮は消費者に低価格の商品を提供するためには必要な施策とされていますが、その裏では下請け業者が利益を削られる現実があります。業者はコスト削減のために生産プロセスを見直し、材料費を削ったり、労働環境を見直さざるを得なくなることが多いです。このような状況は、最終的に商品の品質低下や、従業員の労働条件の悪化に繋がります。また、過度な価格圧力は業者の経営を圧迫し、廃業に追い込まれるケースも珍しくありません。
私の場合は上記の影響を受けませんでしたが、A商品の利益は1個あたり1.5円しかないけどB商品は5円あるからアソートしてコンテナに積んでトータルで利益率を上げる、等常に頭をぐるぐる回転させている必要がありました。あえて言うまでもないですが、「薄利多売」ビジネスの最たる例ですので、損益分岐点を越える為には1日1個とかそんなレベルではなく、例えば1日全店舗で50個とかそんな次元で考える必要があったように思います。(まぁ、店舗でどう売れるかは我々には関係は無いことですが。)
この数年物価高、円安、最賃上昇等様々な要因が重なっている事を鑑みるに、これから安かろう系のビジネスは更に厳しくなっていくとしか思えないのが個人的な感想です。
欠品と
「機会損失」と言う言葉の通り、欠品が一番忌み嫌われていました。倉庫にも多少出入りしていたので流れは覚えているのですが、各店舗から各商品毎の注文が前日までに入り、それを翌日ひたすら捌いていくのですが、やはり売れ行きが良い商品は不足が起きてくるわけです。で、やがて欠品になると暫くは何事もありません。嵐の前の静けさといったところでしょうか・・・。そして、電話が鳴ります。「○○さん、Aが欠品になって数日経つけどどうなってんの?」トーンはさまざまです。キレ気味もいれば、冷静な人もいます。
ここで「欠品がなんで起きるの?」って不思議に思う人の為に説明をしておきます。欠品は言うまでもなく在庫切れのことで、今手元に提供できる物がなくなりました、すみません。と言う状態ですよね。これはまぁ、国内外問わず起きてもおかしくはない事態ではあると思います。ただ、問題があるとするとその期間なんですよね。国内で欠品レベルであればどうにか他市他県の店舗から回してもらったりしてどうにかなると思いますが、輸入ビジネスの場合ある意味唯一無二なのでその海外現地が製造できなければどうにもならないわけです。
そりゃね、1個2個ならまだ別ですよ。デザインはあるので自力でパッケージして納品できるかもしれません。その1000倍はあると思ってください。1回のコンテナで1商品だけで180サイズの箱5~6個が届いて、それを開けたらまた箱が何十個も入っていて、その箱毎にショップへ納品をしていくんです。ひどい時には欠品商品が入ったコンテナが届いたらそれが全てショップへ納品され、1日ですっからかんみたいなこともありました。
付け加えると、船便で輸送するので早くても5日は掛かるわけです。輸出が分かる方はご理解頂けると思いますが、現地をトラック出荷したからと言ってもそこから港湾で待機して⇨バンニング⇨輸出通関⇨出航しても天候の影響で1日2日遅れることもあります。日本に着いた後も輸入通関がスムーズに行かなかったり、許可が下りても通関業者側がこちらの倉庫まで届けるトラックが出払っているなんてこともあったりして、イレギュラーありきで考えないとどうにもならないわけです。
でもまぁ、企業側からしたら知ったことではないわけです。それはお宅の対応ミスですよね、で終わるわけです。多少は組んでくれる場合もあります。船会社側からスケジュール遅延等が起きていれば理由づけになりますし、何なら我々が言わずとも当然把握している内容でしょう。でもそれ以外の理由は基本はNo、と言うかまぁ、顛末書的なのを作って送って、と言う流れになります。
仮に数日遅れたとしても確実に到着するという目処が立つのならまだ話はできるのですが、これだけでは終わらないのです。これは海外現地側との闘いになってきますので今回の内容にはそぐわないのでまた別の機会に記事にしたいと思います。
廃番と自社生産への移行
売れ行きの悪い商品が廃番になることは、小売業界では一般的な戦略の一つです。しかし、100円ショップの場合、このプロセスが非常に迅速であるため、下請け業者に過剰な負担を強いることがあります。例えば、大量生産された在庫が急に不要となる場合、業者はそれを抱え込む形となり、経済的損失を被ります。さらに、短期間での廃番が常態化することで、業者は商品の生産計画や資金繰りに大きな支障をきたすことになります。このような状況では、業者の経営基盤が揺らぎ、最終的には廃業に至るリスクが高まります。
また、100円ショップは、売れ筋商品を迅速に特定し、自社生産に切り替える戦略を取ることがあります。一方で、この手法は下請け業者にとって大きな脅威です。業者が新商品を開発し、販売が軌道に乗った途端に、ショップ側が同様の商品を自社ブランドで展開することで、元の業者の商品が市場から駆逐される事態が起こり得ます。このような行動は、業者の収益機会を奪うだけでなく、イノベーションを阻害する可能性もあります。また、これにより業者が新商品の開発に消極的になり、業界全体の成長を鈍化させるリスクが生じます。
例えバイヤーがOKを出した商品だとしても売れ行きが悪くなる商品があります。ライバル会社の類似商品の存在もそうですし、何なら他の100円ショップの商品も勿論ライバル、○印さんとかもライバルになるでしょう。で、廃番決定は全力で避けなければいけないのが我々の役目で、単体で売れないならアソートを変えたりとかサイズを変えるとか何かしらの打開策を提案するのですが、それも叶わず廃盤になったら、後は現地側にあるだけ送らせて全てを買い取ってもらって、おしまいとなります。(一応全品買取はしてくれました。)
で、またここでも海外現地とのバトルになるのですが、これもまた別の機会にしましょう。(いやー、ずる賢いですよ、連中は。)
それから自社生産への移行へも触れておこうと思いますが、廃盤と逆で売れまくった商品は彼らが直々に生産していることが実は度々ありました。最近商品Cがあんまり受注がないなぁと思っていたら、実はほぼ同じ物(少し量が多かったりや長い)が店頭で売られていて、「おいおい」的な事も・・・。今は法律もだいぶ厳しくなってきたのでそう言うこともないのかもしれませんが。
まとめ
今回は私の経験談を交えて100円ショップの闇に関して記事にしてみました。数年だけでしたがかなり濃厚な時間だったなぁと思い出します。僕自身は現在はまたスモールビジネスをしているわけですが、100円ショップというまさにスケールメリットで勝負をする業界は「やりがい」という面では計り知れないものがありました。貿易は単なる物の流れではあるのですが、その物が川上から川下まで流れるまでの過程で様々な準備、交渉、修正、修正そして完成という人間の苦労あって実現できる賜物だと私は思っています。
100円ショップへ行ったことがない方は恐らくほとんどいないとは思いますが、1つ1つの商品の販売の裏には血と涙が流れているという事実を少しでも分かってもらえると嬉しく思います。
さて、土曜日。100均周りでもしようかな。(週末は商品が拡充されるので楽しみ!)